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大半はT氏が自ら認めているようにサプラィサイド的な発想、つまり、供給側の制約要因を取り除くという内容になっている。
例えば、この方針の最初のページの第一段落で、「過去一○年の日本経済のパフォーマンスは、日本の経済社会が本来持っている実力を下回るものだった」と述べ、すぐその次の第二段落では「日本の潜在力の発揮を妨げる規制・慣行や制度を根本から改革するとともに、司法制度改革を実現し、明確なルールと自己責任原則を確立し、同時に自らの潜在力を高める新しい仕組が求められている」と続けている。
ところが今回の政策はこのような需要側の原因にはまったく触れず、したがって正しい処方菱もないまま、とにかくサプライサイド的な改革を進めれば、いつのまにか景気が良くなるように書かれているのである。
さらに気になるのは、話が大変上手なT氏はどんなに問題が需要側にあるという証拠をつきつけられても、「だから(供給側の)構造改革が必要なんだ」という答えでかわしてしまう究明がまったくない。
この間の資産価格の下落が日本中の企業や家計、金融機関のバランスシートにどのくらいのダメージを与え、それが人々の行動にどのような影響を与えたかという分析が、微塵も見られないのである。
T大臣は、この辺はもう説明の必要もない自明の理としているのかもしれないが、原因には触れずに処方を示すことは説得力に欠ける。
過去一○年間の不況の原因とは、本書で再三指摘している通り、家計がこの一○年間、相変わらず多額の貯金をしているのに、以前はそれを借りて使っていた企業が、資産価格の下落でバランスシートに大きな穴があいてしまった結果、借金返済に回ってしまったことから発生した民間の需給ギャップにある。
そして、その穴埋めをしてきたのが政府の財政支出であった。
それは支持率の高いK内閣に何か都合の悪いことを書いたら、自分たちに攻撃の矛先が向いてくることを新聞が恐れたためであった。
こんなふうにK政策の問題点をあえて書かないということが多くのマスコミで行われるとなると、国民はK政策の危険性を充分知らされなかったのである。
このパターンは「ああ言えば、じようゆう」というあの論法とそっくりであり、そこには恐ろしいほどの論理の飛躍が隠されている。
かのクルーグマンMIT教授でさえ、T氏と会談後、「明らかに需要側の問題なのに、それをサプライサイドという供給側の対応で解消しようとするT氏の主張は理解に苦しむ」と書いている。
そしてこの論理の飛躍こそ株式市場と債券市場が最も懸念している点なのである。
確かに今のマスコミに登場する大半の評論家はT氏と同じことを言っているので、T氏としてはこれは自明の理として扱っているのかもしれない。
K人気が空前絶後であることも「問答無用」の雰囲気を高めてしまうのであろう。
「ウソも百回一言えば人は信じる」ということで、真実はどうであれ、とにかく不良債権と叩いておけば間違いないという雰囲気がマスコミに定着してしまっているのである。
さらに要注意なのが、実際にマスコミの一部に自主的報道統制とも言える現象が生じていることである。
例えばある政治家は、某全国新聞からインタビューを受け、彼の視点から見たK内閣の良い所、悪い所が記事になることになっていたのだが、その記事がボッになってしまそもそも今流行の構造改革という考え方は、第2章で引用させていただいたピーター・タスカ氏も指摘しているように、一九八○年代の始めにレーガンやサッチャーが進めたサプラィサイド経済というところから出てきたものである。
それは当時の英米がスタグフレーションに悩まされ、需要はあるのに国内の供給に問題があることの解決策として提案されたものであった。
実際にレーガン政権がサプライサイド経済を掲げて登場した一九八○年代前半に米国のインフレ率は二ケタであり、短期金利は二○%、長期金利も一四%という、今の日本とは似ても似つかぬまったく違う状況だった。
このような超高金利は大変大きな資金需要がなければ絶対につくことはない。
そして実際に、当時の英米には大変根強いインフレ期待があった。
そこでレーガンやサッチャーは、供給側の最大のネックになっていた労働組合の力を弱め、かえって高支持率の持つ意味が危うくなってくる。
ただ、複数の全国テレビネットが、K氏の早急な改革路線に対し、「不良債権処理と財政再建だけは慎重にやるべきだ」と言う私を何回もT氏とぶつけたということは、マスコミのなかにも、このまま行ったら経済は本当に失速しかねないということを心配している人たちがいることになる。
今から七○年前に、最近のT氏とまったく同様に需要と供給の問題を取り違えたF大統領の財務長官アンドリュー・メロン氏は、結局米国を大恐慌にまで落とし込んでしまったが、今のK政権には残念ながら同じ危険性が存在するのである。
そして、それは株価の動きなどにはっきり表れている。
規制の緩和や参入障壁の撤廃で、供給側の制約要因を次々と取り除いていった。
実際に、レーガン大統領が最初にやったことは、賃金アップを要求してストライキに走った全米の航空管制官を一人残らずクビにしてしまったことであった。
このような形で供給側の制約要因が取り除かれていった結果、需要が元々あるなかで経済全体が良い方向へ動き出したのである。
では今の日本の状態はどうかといえば、カネも人もモノも供給側はいくらでも余っているのに、需要が決定的に不足していて、そのことが不況をもたらしている。
スタグフレーションではなくデフレーションと言われるのもこのためである。
ところがK・T「構造改革」は九九%が供給側の話であって、「骨太の方針」のなかには、需要をどう創出するかという話はまったくといっていいほど入っていない。
それもそのはずで、彼らは最初から、今の日本は二○年前の英米と同様、供給の問題に直面していると思っているからである。
また不良債権処理ということで、今の日本では(生産性の低い)ゼネコン潰しこそ構造改革の第一歩といった見方が広がっているが、このような主張は、経済全体が完全雇用であってこそ、成り立つ話であることを忘れてはならない。
つまり、完全雇用の時に何か新しい分野を拡充しようとしたら、生産性の低い分野を縮小し、そこから人材や資金を持ってくる必要がある。
しかし、今の日本は完全雇用からほど遠い状態であり、人もカネも資源もすべて余っている。
ということは、今の日本で新しいことを始めるのに資源的な制約は何一つないのである。
そのような現状でゼネコン潰しをやるということは、前にも述べたように経済全体の大幅な縮小をもたらすだけでなく、失業者を増やし、残ったゼネコンの寡占化を強めるだけで、構造改革は何一つ進むことにはならない。
しかも、失業者の生産性はゼロだから、失業者が増えれば増えるほど、政府の財政負担は増し、国全体の生産性は落ちることになる。
政府が取り組むべき問題は、なぜこれほど資源が余っているのに新しい事業が起きないかということである。
そして、もしもその原因が規制にあれば、政府はそれらの規制を緩和・撤廃すべきだろうし、もしもそれが金融の問題であればベンチャーキャピタリストを育てるなどすべきだろう。
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